OPERATIONS — 実務手順書

Steam 初リリース
実務チェックリスト

Steam で初めてゲームを出す個人開発者向けに整理したもの。作品の作り方ではなく、出すための手続きと、避けられない制約について。

調査日
2026-09-07
出典の別
Valve公式/第三者調査/未確認
性質
助言ではない。要専門家確認
再確認
Steamの規定は頻繁に変わる
⚠ 最初に読むこと — 米国の源泉徴収

Steam の売上のうち米国内での販売分(US Share)には、米国の源泉徴収がかかる。既定は30%で、自分の居住国と米国のあいだに租税条約があれば軽減される(日本居住ならロイヤリティ0%)。Valve公式

率を決めるのは国籍ではなく、税務上の居住地である。条約が無い国に住んでいれば、30%はそのまま適用され、軽減する方法は無い。

登録する前に、自分の居住国が米国と条約を結んでいるかを確認すること。この文書は公開情報の整理であって、税務上の助言ではない。

0–30%米国売上への源泉徴収。居住国と租税条約次第
$100Steam Direct 手数料/作品
30手数料支払いから発売可能まで
2時間返金の閾値(30分ではない)
2.99%2025年に1,000レビューへ到達した率
20,2822025年のSteamリリース数

01 — REFUNDS返金の閾値は「30分」ではない

正しくは「2時間未満 かつ 14日以内」の両方

両方を満たす場合、Valveは理由を問わず全額返金する。2時間は全セッションの合計、14日は購入日(初回起動日ではない)から数える。Valve公式

Valve will, upon request via help.steampowered.com, issue a refund for any reason, if the request is made within the required return period, and, in the case of games, if the title has been played for less than two hours.

所定の返品期間内の請求であり、ゲームの場合はプレイ時間が2時間未満であれば、理由を問わず返金する。

Steam 返金ポリシー(最終更新 2024/4/23)
ケース扱い
通常2時間未満 かつ 14日以内 → 全額返金
期限超過請求自体は可能。「we'll take a look(検討する)」とある
早期アクセスプレイ時間は2時間制限にカウントされる。14日は発売日から
プリオーダー発売日前ならいつでも返金可。発売日から通常ルール開始
バンドル合計2時間未満なら全額可。部分返金は不可

短編は、構造的に返金されやすい

2時間の壁の内側でクリアできてしまうから。業界の返金率は平均10.8%・中央値9.5%(1.0直接リリースの中央値8%、早期アクセスの中央値12.4%)。GameDiscoverCo 2024調査・開発者150名超

条件返金率
$5未満8%
$30以上11.9%
レビュー評価 90–94%7.2%(最も低い)
Very Positive(80%)未満11%超に上がる

実例:レビュー90%でも返金率21%

協力パドルゲーム『Paddle Paddle Paddle』は、レビューが90% Very Positive でありながら返金率21%・累計55,000回超の返金が発生した。総レビュー約1,500件という規模との対比が議論を呼び、開発者が X で Valve に方針改善を求めている。GamesRadar+ 2026/7/5

なおValveが短編向けに2時間の閾値を変えた、という公式情報は確認できなかった。未確認

返金率9.5〜12%を「丸め誤差」ではなく、収支モデルに明示的に計上する。短編ならさらに高く見積もる。

そしてストアページにプレイ時間とボリュームを正直に明記して、期待値のミスマッチを減らす。レビュー評価を守る初動が、そのまま返金対策になる。

02 — SCHEDULE交渉できない待ち時間が3つある

この3つは短縮できない。逆算の起点になる

NON-NEGOTIABLE — 発売日から逆算する
手数料支払い → 発売可能本人確認のため
30日
Coming Soon ページ公開最低期間
14日
ストアページ/ビルド審査各1〜5営業日
7営業日を見る
税務情報の検証第三者サービス
2〜7営業日

リリース日を固定して告知するのは、審査を通ってから

公式は「発売希望日の少なくとも7営業日前には提出」を推奨している。ただし包装エラーの再審査などで2〜3週間ずれ込んだ実例もある。ビルド審査は稀に数週間に延びる。

入金はさらに後ろにずれる

販売から約30日後、翌月30日までに支払い(2月販売分は3月30日まで)。6月発売なら、初回入金は8月頭になりうる。さらに最低支払額$100に満たない残高は繰り越される。米国外へはUSD の SWIFT 送金のみ。Valve公式

03 — REGISTRATION登録は本名で行う

項目内容
手数料$100 / 作品
その性質返金不可だが回収可能——累計 $1,000 の調整後総収益(AGR)に達した後の支払いで返還される。Steam Wallet では支払えない
会社形態Sole Proprietorship を選び、Company Name に法的な姓名を入力する
屋号契約名義に使えない。公式に「Do not enter a 'Doing Business As' (d/b/a) or 'friendly name.'」と明記
ストア表示名開発元/販売元の表示名は別途設定できる。契約名義とは分けて考えてよい
銀行口座口座名義は登録名と一致必須。「must match the name you provide when onboarding」
税フォーム個人は W-8BEN、法人は W-8BEN-E。法人化は任意で、Valveは「That is entirely up to you」と回答している

04 — TAX率を決めるのは、住んでいる場所

国籍でも、銀行口座の国でもない

⚠ ここが最も金額に効く

Valve は税インタビュー(W-8BEN)で申告された税務上の居住国を見て、源泉徴収率を決める。公式の記載も一貫して「between the foreign person's country of residence and the United States」——居住地基準である。

対象は全世界売上ではなく、US Share(米国顧客への販売分)だけ。米国外の売上に米国の源泉徴収はかからない。だから米国売上比率が高い企画ほど、影響が大きくなる。

状況米国売上への源泉徴収
米国と租税条約がある国に居住条約レートまで軽減(日本ならロイヤリティ0%)
条約が無い国に居住既定の30%。軽減する方法は無い
確認する場所IRS の租税条約リスト Table 3(2026年2月23日更新時点で68条約を掲載)

TIN(納税者番号)が要るのは、条約特典を請求するときだけ

W-8BEN で条約レートを適用してもらうには、外国TINまたは米国TINが必要。逆に、条約が無い国に住んでいるなら請求すべき特典が無いので、税率を下げる目的で ITIN や EIN を取っても意味がない(取っても30%のまま)。ただし税インタビューのソフトが、識別用に外国TINの入力を求める可能性はある。

居住性は、書類の有無だけでは決まらない

多くの国で、税務上の居住者かどうかは住所・生活の本拠・滞在日数などの実質で判定される。住民票を抜いた/残した、という一点だけでは決まらない。

複数国にまたがっている場合、どちらの居住者として登録するかで手取りが変わる。登録する前に、国際税務の専門家に事実関係を整理してもらうこと。Valve の税情報は検証完了まで変更できない。

銀行口座の条件

USD の SWIFT 受取ができること(SWIFT/BICコードを持たないネット専業銀行は不可)。そして口座名義が Steamworks の登録名と一致していること。公式に「The account holder name on your bank account must match the name you provide when onboarding.」Valve公式

Valve は居住国と銀行所在国の一致までは求めないが、法的名義 = 税フォームの居住国 = 銀行名義、の整合性を保つのが原則。居住国以外の口座に受け取ると、その国での課税トリガーになりうる。

05 — WISHLISTS「7,000で露出」という常識は無効化された

指標数字出所
損益分岐のゾーン発売前 7,000GameDiscoverCo
強力なローンチ50,000同上
発売週のコンバージョン10〜25%(中央値15〜20%)同上
Popular Upcoming の閾値約7,000長年の目安
→ 2026年の報道約100,000(15倍)games.gg

ただしこの閾値の変更は、Valve公式では確認できていない

「the new threshold sits at roughly 100,000 wishlists…The bar moved approximately 15 times higher overnight」という報道ベースの情報で、Steamworks 公式ドキュメントでの明示は確認できなかった。未確認 発売計画時に最新の記載で再確認すること。

いずれにせよ「7,000でSteamが勝手に露出させてくれる」という前提は捨てるべき。

外部集客 + Next Fest + フォロワー基盤で、勢いを自作する前提で計画する。

Next Fest は、1作品につき生涯1回だけ

公式に「titles may only participate in ONE Next Fest」

要件は——未発売、公開済みストアページ、開催時に公開デモがあること、開催後まで未発売、既発売作の prologue や短縮版でないこと、アカウントが良好な状態。カテゴリを1つも選ばないと、フェスに一切表示されない。Valve公式

効果は「増幅器であって、生成器ではない」

2026年2月版は全デモ3,500超。参加者アンケートの中央値は806ウィッシュリストだが、全デモで推定した真の中央値は約200。1,000ウィッシュリスト未満で入った作の、フェス中の獲得中央値は462。Zukowski / GameDiscoverCo

発売直前の回に温存し、最低1,000(できれば2,000)を貯めてから臨むのが定石。

デモは遊ばれない。それでもウィッシュリストは付く

2025年2月の Next Fest では、登録者の68〜88%がデモを遊んでいなかった。つまりストアページ自体が売っている。そしてウィッシュリストは「古くならない」——早期登録者と後期登録者のコンバージョン率は統計的に同一だった。だからページはできるだけ早く公開する。

ただしComing Soon 公開時のアルゴリズム的なブーストは無い。露出は自前のマーケ次第。

06 — PITFALLS初回で踏みやすい罠

カプセル画像 — 費用対効果が最も高い投資先

「プロのカプセルアーティストを雇え」

Chris Zukowski は「Unityのスクショ+MSペイントでタイトルを書くようなことをするな」と繰り返し指摘している。カプセルは120×45px でも判読できる必要がある。1回の改訂でウィッシュリストが30〜70%増えうる。How To Market A Game

公式のグラフィックルールでは、カプセルにレビュースコア・受賞ロゴ・割引表記・宣伝文は載せられない。ゲームアートとタイトル、公式サブタイトルのみ。Valve公式

トレーラー

「最初の2秒で実際のゲームプレイにカットせよ」

「スタジオロゴやシネマティックで始めるな(あなたは任天堂ではない)」。そして少なくとも3つの異なる環境を見せて、「アセットフリップではない」と示す。Zukowski

項目やること
タグ最低5個必須・20個推奨。「Action」のような汎用より「Precision Platformer」のような具体的サブジャンルが効く
短い説明文最初の10語でジャンルを名指しする
ローカライズSteamユーザーの60%超が英語以外で利用している

価格と割引 — ルールが細かい

ルール内容
Launch Discount上限40%。推奨は10〜15%
発売後30日間Launch Discount 以外の割引は不可
値上げ後30日割引不可(値上げは30日のクールダウンを誘発する)
割引スケジュール中価格変更不可
ウィッシュリスト通知メール割引20%以上で飛ぶ。20%未満は飛ばない
割引の範囲10〜90%。カスタム割引は最長2週間

初日40%引きは非推奨

「定価が虚構」と見なされ、将来の割引余地を自分で削ることになる。

リリース時期の「デッドゾーン」

シーズナルセールの直前15〜30日に発売すると、発売後30日は割引できないまま、全額のセール期間を迎えることになる。2026年のセールカレンダーで確認すること。

なお2025年の月別リリースは11月が最多(全体の約10.4%、Q4で28.7%)——つまり競争が最も激しい時期でもある。

07 — REALITY「面白ければ売れるのか」

面白さは必要条件だが、十分条件ではない

20,2822025年のSteamリリース数(1日約55.6本)
9,327うちレビュー10件未満(約半数)
2,229レビューがゼロ
6081,000レビューを超えたインディー/AA
2.99%その成功率(2024年は2.44%)
約63レビュー→販売の換算係数(2025年平均)

約97%は「成功」に届かない。これが出発点の数字である。

凡庸な製品は石だ。手を離せば即落ちる。マーケティングをいくら足しても、落ちる速度は変わらない。

Chris Zukowski

ジャンル選択が、勝負の大半を決める

「2〜8倍成功しやすい」ジャンルが実在する

ホラーは、小規模開発者にとって過去3年で第1位のジャンル。2024年のトップ5は Open World Survival Craft / Farming / Roguelike Deckbuilder / Management / Simulation競争が少なく、需要が旺盛。Zukowski

段階典型的な収益
中央値のインディー生涯収益 $5,000 未満
100レビュー超$50,000 〜 $200,000+

08 — TIMELINE時系列チェックリスト

赤い枠は、飛ばせない項目

発売 12ヶ月前〜企画と登録
発売 6〜9ヶ月前ページを立てる
発売 3〜4ヶ月前Next Fest とデモ
発売 1ヶ月前審査と価格
発売日最大の集客イベント
発売後守りの局面

フォロワーについて、見落としやすい差

Developer/Publisher Homepage のフォロワーは、新作の発売時にメール通知を受け取る。複数作を出す開発者にとって、これは資産になる。Valve公式

一方ゲーム単位のフォロワーは、発売時にメールを受け取らない(活動フィードに出るだけ)。ここがウィッシュリストとの決定的な違い。

09 — CAVEATSこの文書の限界

⚠ これは助言ではない

税務・法務は必ず税理士/国際税務の専門家に確認すること。本文は公開情報の整理である。

特に居住国の判定、国内源泉と国外源泉の区分、居住国以外の口座で受け取る場合の課税は事実依存で、誤ると実害が出る。国をまたいで生活している場合はなおさら。

あわせて、就労許可・ビザの範囲内で個人として収益を得られるかも、税務とは別に確認すること。雇用主に紐づいた在留資格では、個人の収益活動が範囲外になりうる。

確認できなかったこと

Popular Upcoming の閾値10万への引き上げ(報道ベース。Valve公式ドキュメントでの明示なし)/8番出口・Buckshot Roulette の具体的な返金率の一次データ(短編は返金されやすいという開発者コミュニティの証言のみ)/デモ専用ストアページの是非、実績・Steam Cloud・トレーディングカードの費用対効果の定量データ。

数字の性質を混ぜていない

Valve公式 は返金ポリシー・Steamworks各ドキュメント・Taxes FAQ・Onboarding・Next Fest の記載。第三者 はGameDiscoverCo(Simon Carless)と How To Market A Game(Chris Zukowski)の調査・推定。ウィッシュリスト閾値、コンバージョン率、換算係数、返金率はすべて第三者の推定で、Valveは公式閾値を公表していない。

数字はすべて取得日 2026年9月7日時点。Steamのルール(特に価格・割引・Next Fest日程・可視化アルゴリズム)は頻繁に変わるため、発売前に必ず公式で再確認すること。

Valve公式: Steam返金ポリシー(steam_refunds、最終更新2024/4/23)/ Steamworks Documentation(Steam Direct Fee, Onboarding, Review Process, Discounting, Next Fest, Taxes FAQ)
第三者: GameDiscoverCo / Simon Carless「Steam refunds: how many should you expect?」(2024, GDC'25発表)/ Chris Zukowski「How To Market A Game」「What the hell happened in 2025?」(2026/1/27, VG Insightsデータ)/ IRS 租税条約リスト Table 3(2026/2/23更新)/ PwC・EY・KPMG・国税庁 No.12006 / SteamDB / GamesRadar+(2026/7/5)/ games.gg
調査日 2026-09-07 / この文書は公開情報の整理であり、税務・法務上の助言ではありません